第3話 「住職」柱松大尉と四川省の5人の若者


昭和15年2月頃から、特務機関は淮南に出張所を置く事になり、
私も初めて現地班を体験した。

   淮南地区警備隊長だった柱松大尉は僧侶で、
東北地方の寺の住職だった。

   彼は無益な殺生を嫌い、捕虜は2~3日留置したあと、
「二度と兵隊になるな。故郷に帰って百姓をしろ」
と言い聞かせては釈放していた。

   昭和16年頃だったろうか、四川省出身の若い兵士5人が捕虜になった。
四川省の強い訛りを話す彼らは、中国軍の仲間からもいじめに遭い、
5人だけで行動していたところ捕虜になったらしい。
しかし、郷里があまりにも遠すぎて帰す訳にもいかない。

   そこで我々の特務機関で面倒を見てくれないかと、柱松大尉から頼まれた。
守衛に雇ったが、彼らは呑気な若者達で、
僅かな小遣いを貰うと博打を打ちに行く。
残飯で鶏を飼い小遣いを稼いだりもしていた。

   やがて私は転勤になったので彼等のその後はわからない。
後年パンダで有名になった四川省に、はるばる帰る事が出来ただろうか。

 

 

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